1年以上を費やしたダンクラの「エア・バリエ Op.89」ですがようやく最後の曲になりました。ご存知の通りエア・バリエは19世紀後半以降のイタリアオペラで使われたアリアを変奏曲仕立てにしたもの。
エアバリエOp.89は6曲構成になっており、各曲について解説したページもありますので、ご覧ください。
曲の構成はどうなっている?
エア・バリエすなわち「アリアの変奏曲」ということで冒頭に原曲のフレーズがあります。この曲については3拍子で、他の5曲が4拍だったこととの違いが浮き彫りになっています。その後に第一変奏と第二変奏が続きます。
第二変奏は発想記号によって「Brillante」と「Cantabile」の2セクションに分けられます。独立したコーダはありません。
主題:3拍子の親しみやすいアリア
それほど難しくありませんでした。引っかかりそうなポイントは17小節から18小節にかけての3連符まじりのフレーズです。
楽譜上は1小節をひと弓で弾くことになっています。こういう場合によく言われる練習方法としては「いったんスラーやタイを無視してしまって全ての音符で弓を返す」というものがあります。
僕の場合、慣れていない場合は単音でピアノの鍵盤を叩き、リズムと音程をある程度把握してからバイオリンに持ち替えました。
リズムを取る場合はバイオリンよりピアノの方がより自然に体に入るかなと思います。
第一変奏:譜面の炎は地獄のようで我が心は萎え
見た目は簡単そうです。
確かに開放弦も使えますし、何より主題の音をアルペジオにしただけに見えます。
ところが難しいのです。なぜ?
答えはスラーの付け方です。例えば最初の2小節にしても、1小節目は「ダウンボウ2拍・アップボウ1拍」ですが2小節目は「ダウンボウ1拍・アップボウ2拍」です。これより後の小節でも似たようなフレーズなのにフレーズごとにスラーの掛け方が一定しません。加えて3連符の小節も出てきます。
この曲は3拍子の曲ですが、この第一変奏は3拍子感を出すのがとても難しい。
なんかわからないけど4拍子になってる。
ちなみに「譜面の炎は地獄のようで我が心は萎え」はモーツァルトの「復讐の炎は地獄のように我が心に燃え」にかけてます。
So bist du meine Tochter nimmermehr.
Der Hölle Rache kocht in meinem Herzen – Wikipedia
第二変奏前半 Brillante:難しい
発想記号からわかるように、明るく輝くような変奏です。軽やかに弾きたいところですが、難易度はとても高く感じています。原因は次のフレーズです。
1小節目の1拍目のタイでつながっている音はリコシェという奏法です。リコシェについては、古い記事ですが詳しい解説記事を書いてくださっている方がいらっしゃいますので、紹介しておきます。
(外部リンク)バイオリン演奏法 リコシェ(ricochet)/リコシェ・サルタート(ricochet saltato)/跳ばすスラースタッカート(flying staccato)の弾き方と練習方法
そのリコシェのオチになる2小節目の冒頭のファの音。と思ったら三重音になだれ込むという鬼畜ぶり。D線が開放弦なことが唯一の救い。キリエ…
キリエ(Kyrie)はギリシア語の κύριος(kyrios – 主(しゅ))の呼格κύριεをラテン文字で表わしたもので「主よ」を意味する。また、「キリエ」(もしくは「キリエ・エレイソン」)はキリスト教の礼拝における重要な祈りの一つ。日本のカトリック教会では第2バチカン公会議以降典礼の日本語化に伴い、憐れみの賛歌(あわれみのさんか)と呼ばれる。日本正教会では「主、憐れめよ」と訳される。
Wikipediaより
真面目に話をしますと、A線のシの音を押さえている1の指を「柔軟性を持たせてまま」固定してやると音程が崩れにくくなりそうです。音程に関してはE線とA線にいったん分離して単音で練習している最中です。
「もなか」じゃないよ。
コンキリエ食べたい。
その後も56小節目から難所が出てきます。
これ、練習すれば弾けそうに見えるのですが、弓を当てる弦が6連符の中で「D線→A線→E線、E線→A線→D線」というように目まぐるしく変わっていきます。
これが弾けたらかなり舞台映えして上手そうに見えますが、それなりに難しいですね。僕はここの6連符を数えるために頭の中で「うさぎもなか」と唱えています。
いいですか?6連符は「うさぎもなか」です。
「うさぎもなか」
6文字ならなんでもいいんですけど、このフレーズに関しては3文字+3文字の言葉がいいと思います。
「うさぎもなか」とか
「いちごミルク」でもいいです。
第二変奏後半 Cantabile:気ままに自由にしたい
「のだめカンタービレ」のカンタービレですね。気ままに、自由にやりましょう。
そう思って弾き始めると早速挫折ポイント出現です。弓でA線を弾きながら、左手の使っていない指でD線とG線を重音でピチカートすることが要求されています。
このフレーズについて、僕は大きな問題なく弾けました。たまたまギターの経験があったからです。
「はい?」と思いますよね。
実はところギターの世界では「他の弦を鳴らしながら左手だけで音を出す」ことがよくあります。「プリングオフ」と呼ばれています。
プリングオフは左手で押さえている弦から指を外すときに、わざと弦を引っ掛けるようにして指を外します。そうすると、押さえていた弦を「別音程で再度鳴らす」ことができる仕掛けです。
この技術に右手の弓の動きを加えるだけで技術的にはクリアできました。幸い弓も一つの弦しか弾かなくてOKということもプラス材料でした。めでたしめでたし。そう思っていました。すると突然…
満を持してハーモニクスのご登場です。しかも人工ハーモニクス。またの名を「人工フラジオレット」とも。
この奏法はモンティの「チャールダーシュ」で馴染み深いですね。練習したことがある方なら、この奏法の孕む危険性をご存知だと思います。
「適切な」位置に指を置き、「適切な」強さで弦に触れ、「適切な」速さで弓を動かします。
それができれば苦労しない。
ギターのフレットのありがたみを感じます。ちなみにフレットがあっても微妙にフレットから指をずらさないと出ないんですがね。12フレット以外は。(負け惜しみ)
対処方法は、指板の左手を目で視認して、視覚的に覚えるしかなさそうです。
カンタービレで手こずった後、第二変奏の最後はBrillanteの再現っぽい形で派手に終わります。
第二変奏は全体としてABAの3部形式と解釈できそうですね。
楽譜情報:5番「ヴァイグルの主題」に国内版はない。
この5番ヴァイグルについては国内の有名どこのバイオリン教本に収録されていません。よって国外版の楽譜を大阪駅前第二ビルのササヤ書店さんで調達しました。ちなみにこの記事で使っている楽譜は下の写真のカールフィッシャー版ではなくIMSLPの楽譜 (外部リンク)6 Airs variés, Series I, Op.89 です。
【2023年2月20日更新】練習の進捗状況
曲全体を通しで録音してみました。
まだテンポは上げられていませんし、第一変奏は相変わらず3拍子の感じが出ません。あと第二変奏の左手ピチカートの時になぜか弓がピチカートしているはずの弦に当たったり、コントロールがイマイチです。
【2023年3月6日更新】練習やり直し
2月21日のレッスンで、「来週に完成で!」と言われていました。
2月28日のレッスンでは終わりませんでした。三重音と部分と、変奏と変奏の間が上手くつなげられていない感じでした。
プライベートでちょっとバイオリンを弾けない期間ができてしまった関係で、1週間もこのエアバリエを練習できませんでした。さてどうしましょうか…。
【2023年3月7日更新】終了!
「練習やり直し」と綴ったのですが、その後数時間ほど付け焼き刃で練習をしました。そしてレッスンに持っていったらどうにか完成できました。次の曲は「フィオッコのアレグロ」です。